オフグリッド生活


モバイルハウス

 パーマカルチャー研究所では、建物を建てることができない市街化調整区域という土地(原生林)を、実験フィールド(以下、「フィールド」と表記)として使っている。フィールドでは、「オフグリッド生活」を作る実験をしている。通常の家は、ライフラインと呼ばれる、電線、通信線、上水道、下水道、ガス管などが整備されている。そのため、安全・安心・快適な暮らしを送ることができるというメリットがある反面、災害に弱かったり、これらにかかる支払いに追われてしまうというデメリットもある。先の見えないシステムに依存している漠然とした不安を感じる人もいる。

 それに対してフィールドで行っているオフグリッド生活実験では、これらのライフラインの代替手段を作りながら生活することを目指している。それにより、ライフラインの代替手段を絶えず自分でメンテナンスする手間があるものの、災害に強い(むしろ常にサバイバル生活)、月々の支払いに追われないというメリットを有する。また、システムが自分の手の届く範囲にあるため、自分がそれらをわかっている、壊れても自分で修理することができるという安心感も得られる。

 

 フィールドでのオフグリッド生活実験では、通常の住宅にあるライフラインを、以下のように代替することを検討している。

 1. 電線 → 太陽光発電

 2. ガス管 → 薪ストーブ

 3. 上水道 → 井戸

 4. 下水道 → モバイルエコトイレ

 5. 通信線 → スマートフォン(ここだけは自作しにくいので、既存のシステムを活用する)

 

 また、ライフラインの自作だけではなく、住む家もモバイルハウス(可動式のタイヤのついた家)を自作した。現代の通常の住宅は、「建築のプロが他人のために建てた家」である。そのため、仕上がりとしては完璧で快適である反面、個性的な家は少ない。一方フィールドで自作したモバイルハウスは、「建築の素人が自分のために建てた家」である。そうなると、自分がよければそれでよいという家ができあがる。この家は写真に示すように、全体がただの板張りである、窓が丸い、タイヤがついているなど、見たことのない個性的な家ができあがるおもしろさがある。

 

 

 この実験を通して、現代の生活のありがたさや問題点などを再認識し、現代のエネルギーを大量消費する生活スタイルを改めて考えなおすヒントとしていきたい。

 

井戸掘り

○井戸について

 上記ライフラインの自作で最も難しいと感じているのは、上水道の代替手段である井戸掘り(打ち抜き井戸)である。以下に、これまでの歩みを示す。

 

6月1日 井戸掘りはじめ。スコップで大きな穴を掘っていく。1mほど進んだところで、いきなり水が出る。

6月上旬 井戸の深さが2mを超え、スコップでの井戸掘りが限界を迎える。当初水が出たと思っていたのは、浸水した雨水だったようで、すぐにその水が涸れてしまう。

6月中旬 土を柔らかくするために棒の先端に付けたシャベル。そのシャベルの先端に力がかかりすぎ、折れた先端が井戸底へ。ここから苦難が始まる。1日掘っても1cmも進まない日が増えてくる。

6月下旬 車の排気ガスを利用する、エンジン掘りを始める。このあたりで、水が涸れることがなくなった。地下水脈に達したと思われる。

7月中旬 エンジン掘りのやりすぎか、車のマフラーが破損。ボロい軽自動車が、暴走族のような音を立てて走るようになる。

7月下旬 もうエンジン掘りはできないと悟り、再び井戸掘り器を使った手掘りに戻る。しかし、エンジン掘りで地道に掘り進んだ成果か、ついに掘り進みやすい地層に達する。

8月中旬 井戸の深さ5.3m、水深2.3mに達する。井戸水の金属くささ、カナケが気になる。たくさん汲み出していればこのカナケが弱くなるとの情報もあるため、一度手押しの井戸ポンプをつけてみることにする。現在、井戸周辺に安定した床を作ることを検討中。

8月22日 井戸ポンプを取り付け、遂に水が出る。